2020年1月27日月曜日

システムの費用対効果 〈研修による能力向上、人材開発〉

忘れられがちですが、人材開発は最も効果的なQCD向上策です。適切な研修や職場教育(OJT)は費用対効果を何倍にも高めます。2年前の新卒者研修で行った内容をご紹介します。*


15名の新卒者を対象に初期導入教育を実施しました。昨年の反省を踏まえ今年は一人一人に集中力を求める強化プログラムに変更しました。メモをとらずに30分ヒアリングをする。人の話を頭に焼き付ける。そのために集中力を発揮する、昨年との違いは“集中力”、この一点です。


高専卒から大学院卒まで年齢は5歳くらいの幅がありましたが、結論から言えば、集中力、ヒアリング能力に年齢、理科・文科など専攻の影響は見受けられませんでした。採用プロセスで一定の基準をクリアしているからでしょうか。ただ意外なことがわかりました。今回はそのこともお話しします。

研修の内容は、模擬的に顧客へのヒアリングを実施し、問題分析、改善提案を行うというものです。ヒアリングでは私が一人二役で上司役と顧客役を演じ分けました。15名の新卒者はスタッフとして、個々に上司と顧客にヒアリングするという設定になっています。上司とスタッフのペアが15組あるかのようなイメージですね。また問題を分析、改善提案をスライドにまとめていく過程では私が上司役としてレビューを実施しました。

お客様はアパレル企業、人事部さんとの打ち合わせでヒアリングをするという設定です。副業採用を本格化するとのことで、既に導入済みの正社員採用の電子りん議を手直しするというものです(※フィクションです。念のため)。検討されている副業のあらまし、採用りん議として考慮すべきことなどをヒアリングします。実際のヒアリングは20分になりました。60分かけてヒアリング内容を議事録にします(実際の仕事でも慣れないうちは議事録作成にヒアリング時間の3倍かかるというのが相場です)。

副業を取り上げたのには理由があります。技術系、営業系と大きく配属先の目処はあるとはいえ総合職は辞令一つで明日から何屋さんにでもなるというものです。だからといって主体性を無くしては何屋、何者にもなれません。仕事(賃労働)とは自分の職務能力を売ることであり、会社に来て漫然と時間を過ごすことではない、そのことを意識する材料として、副業=得意とする職務能力を売る、働き方を題材としました。

お話の内容です。

“販売員、デザイナー、EC系ITなど専門職について副業採用を考えている。販売員であれば週末の忙しいタイミングで働いてもらう。平日・週末の繁忙の波はもちろんだが、ファッション通の個人の力に期待する面もある。自分のブログでコーディネートを発信、街中での動画も活用し表現力豊か、プロ顔負けのものもある。固定ファンも持っている人も多いようだ。自社のブランド、自分の世代に閉じることなく、幅広く素養を得て、お客様との交流経験を積むことがこれからの販売スタッフには必要だ。正社員にも良い刺激になるはずである。デザインも仕事の波があり必要な時に仕事を出したい。クリエイターにとり仕事がないのに会社に来ることほど苦痛なことはないらしい。逆に自分がしたいと思っていたチャレンジングな仕事というのは、いくら忙しくてもイキイキしていられるらしい。もちろん、その方がデザイナーにも相当良い収入になる。EC系ITは他社での経験、ノウハウを期待している。例えば、おすすめ商品、いいねリスト、購買履歴など、表には出てこないところでレスポンスを高める設計上の工夫があるらしい。利便性とのトレードオフをクラウド基盤の特性を踏まえ実装、ECサイトを成功させている人材の手を間借りしたい。

もう一点、採用後2年間に掛ける育成コストを採用りん議の段階で想定しておきたい。人件費(給与、賞与、社会保険、福利厚生)、エージェント経由の場合のコミッションなどの直接費に、育成コスト加えたトータルで勘案したいという要望が経営から出されている。人手不足を背景に十分な能力を持たない人材を無理に採用しアンマッチが起きている。早期退職ではコミッション分も回収できていないので、育成コストという項目で現状の能力を意識させ、無理な採用に一定の抑止をかけたい。”

他、選考、採用りん議のプロセスに関連した内容が続くのですが、それは割愛します。

ヒアリングを前編と後編に分けて、計2回行う予定だったのですが、結果的に前編を1回追加し計3回実施しました。最初のヒアリングの出来があまりに悪かったからです。出来が悪かったというのは全員ではありません。出来た人と出来なかった人の差が甚だ大きく出ました。今回わかったことの一つは、このヒアリング能力と問題分析能力の相関です。問題分析、改善提案の最終的な出来はほぼ最初のヒアリングの出来に連動しました。同じヒアリングを2度実施し、提出してもらった議事録を見る限り個人間の差は縮まっていたのですが、結論から言えば前編を2回実施せずとも最終的な結果に差はありませんでした。これは怖い結果です。一見簡単なタスク、30分ほど人の話を聴くことが、問題分析、改善提案といった高度なアウトプットに連動するのです。出来の良い人ははただ聴いているだけではない、問題分析、改善提案につながる ”何か” が違うのです。そもそも、人の話を聴くというベーシックな知的好奇心があるか、ないか、その違いではないかと私は見ています。モチベーションなくして認知・行動はありませんから。



例えば採用試験にヒアリングを導入すれば良いスクリーニングになるでしょう。話の要点が議事にあるかチェックするだけです。難しい質問を用意する必要もありません、簡単なことです。また面接を何度もするくらいなら、ヒアリングに続き問題分析の宿題を出しても良いでしょう。あまり手間のかかる宿題を出せば他の企業に流れるかもしれませんが、問題解決に興味のない人間、問題分析を億劫がる人間を雇用し続けることになるくらいなら他に行ってもらった方が良いとも言えます。単純労働は早晩機械に取って代わられますから。

※求職者側の意見ですが、就職活動をしていた頃、形式的に続く部長面談、役員面談に辟易しました。何の意味があるのでしょう、同じような質問ばかりで。これはこれで求職者側の企業見極めになりましたが。



知識教養がないのも考えものです。あまりに論理性がないのも困ります。しかし仕事の現場に書かれた文章が用意されているでしょうか?顧客の要望、要件が文章として既に存在しているのでしょうか? face to face のコミュニケーションで徐々に要望、要件が具体的になり、”である・ではない” という問い掛けから、あいまいさが排除され、よりクリアになっていく。“こんなケースはどうでしょうか?” という自分にはない相手の発想から、より発展されたアイデアが作られていく、そのような創造のプロセスにこそ機械に代替されない人間らしい労働の価値があります。



顧客とのコミュニケーションには甘えが許されません。重電メーカの総合研究所にいた時、NTT出身の所長がレビューや面談で “技術者の独善性” という言葉を何度も使っていたことを覚えています。当時、私はその言葉の実感がありませんでしたが、20代の最後、顧客相手の仕事に復帰した時、責任も重く、コミュニケーションに緊張しましたが、何よりも “技術者の独善性” を思い知ることができました。専門性を盾に社内では好きな事を言えます。言いっ放しができます。その気がなければ人の話に耳を傾ける必要もありません、あえて不都合、不愉快なフィードバックをする人もいないでしょう。そんなことは組織において損なことですから。しかし、顧客には筋の通らないことは言えません。言い訳もできません。“技術者の独善性” は顧客に接し、フィードバックを直接受け、“痛い目” にあうことで初めて気付くのです。

ですから、今ヒアリングの出来が悪かったとしても悲観することはありません。母国語の話を30分聴き取る、こんなことすら自分は出来ないということを入社した4月の段階で認識できたことは有益です。4、5年後の異動で気付いたとして、どうしろというのでしょう。

永島志津夫

* 当時別のブログにあげた記事を再掲しました


全社のシステムを少ない人数で見ていれば時に見落としもあるかもしれません。

オフィスエヌ ショートレビュー5万円から

連絡先 office.nagasima#gmail.com (#を@に変えてメールをお願い致します)